あるきデス

50代からの毎日の歩き方from鎌倉。Rock your life! ジタバタしたっていいじゃないか!

アラン パーソンズ プロジェクト Alan Parsons Project を歩く ~中級・上級者向けAPP論 否定形の美学~

 「僕たちのやり方は最後まで一貫していた。基本的に作詞はエリックの仕事で、作曲も大半は彼が手がけた。」

 

以上のアラン・パーソンズの言葉からもわかるようにアラン・パーソンズ・プロジェクトにおける分業は作家(エリック)と編集者(アラン)のような関係性だったかもしれません。

 

で、今回「アラン パーソンズ プロジェクト Alan Parsons Project を歩く」第3回では作家エリック・ウルフソン(当時のレコードのライナーノーツは「ウールフソン」という表記)の世界観にちょっとだけ迫ります(全面的に迫るのは連載4回目以降です)。

 

早速ですがエリックの書く歌詞には「汚い」言葉はほとんど出てきません。「汚い」とは敬虔なクリスチャンが口に出来ないとか、今なら「Parental Advisory」のステッカーが貼られる内容ってことです。もちろん100%ないというわけではありませんけど少なくとも暴力的な、もしくは露骨な性的表現というものはないです。

*今から30年以上前、大学生だった頃に自分が演じなければならないウッディ・アレンの劇のスクリプト(台本)の録音を純真なクリスチャンの留学生にお願いしたら「これは言えない」「これもダメだ」が結構あって面白くも「そんなに英語って汚い言葉が多いの?」って思ったものでした(というかウッディ・アレンが書いたからかと後年気付く)。

 

では全く毒のない文部省唱歌みたいな内容かと言えばもちろんそんなことはなく、毒だらけなんですよ実はウッひっひっひっ(大丈夫かいオイ?)。

 

このエリックの歌詞に含まれる毒は、エリックが自身の体験を通じて感じていた、もしくはエリックが社会をその鋭い観察眼で捉えた他者やシステムに対する違和感が源泉になっているように思います。そういう意味ではエリックの歌詞にはピンク・フロイドロジャー・ウォーターズ)の世界観とも共通したものを私は感じてしまうのです。もちろんトーン&マナーはちがう。でも本質的には共通するような・・・。この世界観と思われるものについては次回書くとして、端的に言うと歌詞の内容がペシミスティック(厭世的)かつ時に辛辣なんだけど優しさに溢れているんですね(なんのことやら分かりませんね)。

*ちなみにエリックの世界観にロジャーの世界観と共通するものを感じる、というのはアランがピンク・フロイドのアルバムを「プロデュース」した(世間では「狂気The Dark Side of the Moon」ではアランはエンジニアだけを務めたと思われ、アルバムのクレジットも実際そうなっていますけど、あえて謙虚なアランに代わってこう書きます)こととは直接的には関係ないと思います。そもそも感じるのであって全く同じ世界観ではない。これについてもあらためて記事にします。

 

このことを象徴するかのようにエリックの書く曲には曲名が否定形になっていることが少なからずあります。

 

前回の「リードボーカル考」でまとめた一覧に沿って曲のタイトルが否定形(文)になっているものを全10作のアルバムすべてから列挙してみると:

 

〇 I WOULDNʼT WANT TO BE LIKE YOU (2作目「アイロボット」の2曲目)

〇  DONʼT LET IT SHOW (同上5曲目)

〇  CANʼT TAKE IT WITH YOU (3作目「ピラミッド」の5曲目)

〇  YOU WONʼT BE THERE (4作目「イブ」の4曲目)

〇  DONʼT HOLD BACK (同上7曲目)

〇  I DONʼT WANNA GO HOME  (5作目「運命の切り札」の4曲目

〇  NOTHING LEFT TO LOSE (同上9曲目)

〇 DONʼT ANSWER ME (7作目「アンモニア・アヴェニュー」の5曲目)

〇  YOU DONʼT BELIEVE (同上7曲目)

 

ざっと9曲にのぼりました。

 

10枚のオリジナルアルバムに収録された曲は合計92曲なので9曲というのは少ないように感じるかもしれません。でもタイトルが否定形でなくとも歌詞にやたら否定形が出てくる「アイ・イン・ザ・スカイ」のような曲もありますし、ほぼほぼ否定文と捉えていい「ガウディ」収録の「TOO LATE」のような曲もあります。アラン・パーソンズ・プロジェクトのレコード買って否定形のタイトル曲も見つけると「よっ!待ってました。」と高揚したり、はたまたホッとしたりと不思議な感覚になったものです。

 

それにしても「君のようになりたくない」とか「見せてはいけない(感づかれないように)」とか「(死んだ後まで)持って行けない」とか「あなたはいない」とか「帰りたくない」とか「失うものは何もない」とか「返事しなくていい」とか「あなたは私のことを信じてない」とか・・・このネガティブな世界にどっぷりと(箱根の温泉に入った気分で)心地よく浸れるかかどうかがアラン・パーソンズ・プロジェクトと長年付き合っていけるかどうかの分かれ目なのです(ほんとうかぁ?)。

 

まあ、唯一「DONʼT HOLD BACK」だけが否定文ながらポジティブな応援歌(「遠慮するな」「ためらうな」「踏み出せ」)になっているので文脈が他の否定文タイトル曲とは異なりますね。この曲はアルバム「イブ」の中にあることで大きな意味を持ってるとも思いますのであらためて「イブ」をご紹介するときに詳しく書きますね。

 

一方で否定文タイトル曲が収録されていないアルバムは:

 

1作目「怪奇と幻想の物語~エドガー・アラン・ポーの世界 TALES OF MYSTERY AND IMAGINATION」

6作目「アイ・イン・ザ・スカイ EYE IN THE SKY」

8作目「ヴァルチャー・カルチャー VULTURE CULTURE」

9作目「ステレオトミー STEREOTOMY」

10作目「ガウディ GAUDI 」

 

となります。

 

「怪奇と~」はポーの世界ですからね。「アイ~」は既に書いたようにタイトル曲の歌詞が否定文のオンパレードです。「ヴァルチャー~」はコンセプトアルバムではないかもしれませんけど、これはアルバムタイトルからもわかる通り否定「臭」プンプンです。問題は「ステレオ~」と「ガウディ」。「ステレオ~」はポーの世界とは言えないし「ガウディ」は遺物シリーズとして「ピラミッド」と同じ雰囲気を感じなくもない。この否定臭の弱さがこの両作品の共通点です。

 

それでも「ステレオ~」には巧みに否定臭がまぶされています。それもこのエリックの歌詞世界がもっとも際立つ表現方法で。これまたじっくりと論じたいと思います。で、「ガウディ」には実は「アイロボット」の世界観にもどったかのような曲もあるのです。いい意味で厭世的で、辛辣で、でも優しいエリック・ウルフソンの歌詞世界こそアラン・パーソンズ・プロジェクトの大きな魅力のひとつだと言えます。

 

では、次回もYou'll never walk alone!